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神戸家庭裁判所尼崎支部 昭和53年(家)1377号 審判

主文

相手方は申立人に対し金三一七万九〇〇〇円を即時に支払え。相手方は申立人に対し、昭和五四年一一月一日以降毎月一〇万円宛を毎月末日限り支払え。

理由

(一)  本件申立の要旨は、「申立人と相手方は夫婦であるが、相手方は昭和四六年九月頃から田村英子なる女性と同棲して別居し、同年一一月から昭和五〇年一月までに毎月五万円宛の生活費を申立人に送金していたが、同年二月以降は昭和五一年六月に五万円、昭和五二年一二月に三万円、昭和五三年二月七日から同年一二月二六日までの間に一万五〇〇〇円ずつ九回送金してきただけで生活費の送金をしない。

なお、申立人相手方間の長男光宏は昭和四八年夏頃以降申立人と同居していたが、昭和五二年一月以降は相手方の負担の下に○○学園高校の寮で、ついで、昭和五四年四月以降は○○○○大学の寮で生活しているが、いずれも休暇等で帰宅した場合は申立人宅で起居し、次男忠宏はそれまでは相手方と同居していたが、昭和五四年六月からは申立人と同居している。

よつて、申立人は相手方に対し昭和五〇年三月以降毎月すくなくとも一五万円の婚姻費用分担金の支払を求める。」というのである。

(二)  本件および昭和五三年(家イ)第八四号婚姻費用分担調停事件の各記録及び調査審問の結果によると次の事実が認められる。

1  申立人と相手方が昭和三七年三月二九日婚姻したこと及び同人らの間に長男光宏(昭和三五年三月一日生)、次男忠宏(昭和三六年九月一一日生)が出生したこと。

2  相手方が昭和四六年一〇月頃右妻子等と同居していた自宅に申立人を残し、光宏、忠宏を伴つて他に別居し、以来田村英子なる女性と同棲していること。

3  光宏が昭和五〇年四月○○学院高等部に入学し、昭和五一年七月初め○○少年院に収容され、昭和五二年一月始め仮退院して相手方宅に帰り、相手方の負担の下に同月末○○学園高等学校一年に編入学して同校の寮に入寮し、ついで、昭和五四年四月○○○○大学に入学して同校の寮に入寮して現在に至つていること。

ただし、同人は休暇休日等には申立人方に帰宅して同居し、その日数は昭和五二年以降年間三か月位になり、その間の食費等の費用として年間約九万円を要すること。

4  忠宏が昭和五三年四月○○高校に進学したこと、同人が昭和五四年六月九日相手方宅を出て申立人宅に移り、以来、申立人と同居していること及び○○高校に対する授業料その他の納付金は従来どおり相手方において支弁し、その額は昭和五四年度(同年四月以降一か年)において四〇万八二〇〇円であること。

5  相手方が申立人に対し、生活費として、昭和四六年一一月から昭和五〇年二月までは毎月五万円宛、昭和五一年六月五万円、昭和五二年一二月三万円、昭和五三年二月七日から同年一二月二六日までの間に一万五〇〇〇円ずつ九回、送金していること。

従つて昭和五〇年三月以降昭和五四年五月までの右支払額の総計は二一万五〇〇〇円である。

6  相手方は昭和五〇年において、給与所得四二〇万円、株式配当所得四五万円計四六五万円の所得を得、これより所得税五〇万二〇〇円、県民税および市民税計二九万七七四〇円、社会保険料一八万二四〇〇円を控除すると三六六万九六六〇円であり、これより職業経費として二割を控除すると二九三万五七二八円であり、一か月二四万四六四四円(約二四万五〇〇〇円)であること。

7  相手方は昭和五一年において、給与所得六八〇万円、株式配当所得三〇万円計七一〇万円の所得を得、これより所得税七〇万八九〇〇円、県民税および市民税計四一万八八七〇円、社会保険料二二万五七五〇円を控除すると五七四万六四八〇円であり、これより職業経費として二割を控除すると四五九万七一八四円であり、一か月三八万三〇九八円(約三八万三〇〇〇円)であること。

8  相手方は昭和五二年において七一〇万円の給与所得を得、これより所得税六七万八四八〇円、県民税及び市民税四一万〇七六〇円、社会保険料三二万二五六〇円を控除すると、五六八万八二〇〇円であり、これより職業経費として二割を控除すると四五五万〇五六〇円であり、一か月三七万九二一三円(約三七万九〇〇〇円)であること。

9(イ)  相手方は昭和五三年において、給与所得六二五万円を得、これより右所得に対する所得税五三万九九〇〇円、県民税所得割分一一万二八四〇円(別に均等割分三〇〇円)、市民税所得割分二一万八六八〇円(別に均等割分一二〇〇円)、社会保除料三五万八二四〇円を控除すると五〇一万八八四〇円であること。

(ロ)  田村英子は昭和五三年において、二一六万円の給与所得を得、これより所得税一三万九七〇〇円、県民税および市民税計五万三〇二〇円、社会保除料一六万五一六〇円を控除すると一八〇万二一二〇円であること。

(ハ)  しかし田村英子の右所得は、相手方が代表役員をしている所謂個人会社である○○○○株式会社の給与所得であるところ、実際は田村英子は同会社に勤務していず、同人の給与所得は名目上のものにとどまり、実際は相手方の所得であると認められこと。

(二) 右各額の合計は六八二万〇九六〇円であり、これより職業経費として二割を控除すると五四五万六七六八円であり、一か月四五万四七三〇円(約四五万五〇〇〇円)であること。

10  なお、相手方は昭和五三年において二三五万九〇三〇円の不動産譲渡による臨時収入(分離短期譲渡所得)を得、これよりこれに対する所得税九四万三六一二円、県民税九万四三六一円、市民税一八万八七二一円を控除すると、一一三万二三三六円であること。

11  申立人は、昭和五〇年三月以降において各年とも平均して一か月約四万五〇〇〇円の医療事務補助による所謂パート収入を得ており、これより職業経費として一割と県民税及び市民税年間二〇〇〇円の一か月分一六六円を控除すると四万〇三三四円(約四万円)であること。

(三)  以上の事実によると、相手方は申立人に対し婚姻費用分担金を支払うべき義務があるというべきである。

そして、前記事実関係に照すと、所謂学研方式により、右婚姻費用分担金を定めるのを最も相当とするから、以下右方式によりこれを定めることとする。

1  軽作業に従事する載手方の消費単位は一〇〇とし、事実上主婦の立場にある田村英子の消費単位は八〇とし、光宏の消費単位は昭和五〇年四月以降高校生なるも同年三月よりこれに準じて九五とし、大学入学後は一〇五とした上社会人に準じて単身者世帯加算二〇を加えて一二五とし、忠宏の消費単位は中学生として八五、高校入学後は九五とし、主婦である申立人の消費単位は八〇とし、なお、単身生活時は単身者世帯加算二〇を加えて一〇〇とする。

2  前記のとおり、昭和五〇年三月から昭和五一年六月までの間光宏は申立人と同居しており、相手方は忠宏及び田村英子と同居していた。

右期間内の申立人及び光宏の所要生活費に充てられるべき費用を学研方式により算出すると別紙(1)記載のとおりであつて一か月九万七〇〇〇円となる。

3  前記のとおり、昭和五一年七月から昭和五一年一二月までの間光宏は少年院に収容されており、その間同人の生活費を要しないが、前記のとおり、昭和五一年においては昭和五〇年に比し相手方の収入も著しく増大しており、労研方式により申立人の所要生活費に充てられるべき費用を算出すると別紙(2)記載のとおりであつて一か月一〇万五〇〇〇円となり、前項で算出した額を約八〇〇〇円超えることを考慮すると、右額を減ずることは相当でなく、また、右超える程度や光宏の生活費を要しないことを考慮すると右額を増すことも相当でないというべきである。

4  前記のとおり、昭和五二年一月から昭和五四年五月までの間、相手方は忠宏及び田村英子と同居し、光宏を扶養し、申立人は単身で生活していた。

右期間内の申立人の所要生活費に充てられるべき費用を算出すると、別紙(3)、(4)の(イ)(ロ)各記載のとおりであつて昭和五二年においては一か月八万二〇〇〇円であり、昭和五三年一~三月においては一か月九万九〇〇〇円であり、同年四月~一二月においては一か月九万七〇〇〇円である。従つて、前記二の一か月九万七〇〇〇円に比し昭和五二年は可成低くなり、昭和五三年は三月まではわずかに上迴り、四月以降は同額となるが、前記のとおり、光宏が年間三か月位申立人方に帰宅しており、その間申立人において食費等の負担を要することなどをも考慮した上、基準としての右一か月九万七〇〇〇円は昭和五二年、五三年を通じ、更に、申立人、相手方夫々の同居関係や、現実の扶養関係において変更のない昭和五四年六月九日まではこれをそのまま維持することとする。

なお、昭和五三年における載手方の土地譲渡による収入は臨時収入と認むべきものであるから、右婚姻費用分担額の算出に当つては、これを加算しないこととした。

5  よつて、昭和五〇年三月から昭和五四年五月までの間(合計五一月)は、右九万七〇〇〇円から前記(一)の一一の申立人の収入四万円を控除した五万七〇〇〇円を以て相手方が申立人に支払うべき一か月の婚姻費用分担金と定める。

従つて、右期間の相手方が申立人に支払うべき婚姻費用分担金の総額は、五万七〇〇〇円×五一 = 二九〇万七〇〇〇円となるが、これにより右期間内に相手方が申立人に支払つた前記(一)の五の二一万五〇〇〇円を控除すると二六九万二〇〇〇円となる。

6(イ)  昭和五四年六月一〇日以降、相手方は田村英子と同居して生活し、光宏を扶養し、申立人は忠宏と同居して生活している。昭和五四年における相手方の収入、公租公課等はこれを明らかにすることを得ないが、特段の事情の認められない本件においては、昭和五三年の収入によつて、申立人及び忠宏の所要生活費に充てられるべき費用を算出することとする。

よつて、これを算出するに、別紙(5)記載のとおりであつて一か月一六万六〇〇〇円となる。

これにより、相手方が○○高校に納付すべき忠宏のための授業料等の納付金年間四〇万八二〇〇円を月割にした一か月分三万四〇〇〇円を控除し、光宏の帰宅時の食事等の諸がかり年間九万円を月割にした一か月七五〇〇円を加え、更に前記(一)の一一の申立人収入四万円を控除すると九万九五〇〇円(約一〇万円)となる。

そうすると、一〇万円を以て相手方の申立人に支払うべき一か月の婚姻費用分担金と定めるのが相当である。

(ロ)ただし、同年六月については、前記の五の一か月の分担金、五万七〇〇〇円の三〇分の九、一万七一〇〇円と上記一か月の分担金一〇万円の三〇分の二一、七万円の合計八万七〇〇〇〇円(正確には八万七一〇〇円となるが八万七〇〇〇円とする)を以て、当月分の分担金と定める。

(ハ)右によると昭和五四年六月から同年一〇月までの分担金の総額は四八万七〇〇〇円となり、これに前記二六九万二〇〇〇円を加えると三一七万九〇〇〇円である。

7  なお、相手方が昭和五三年以降申立外井上きみ子を事実上扶養すべき関係にあるとしても、調査の結果によると、同女は年間、西宮市民年金及び老齢福祉年金計二二万二〇〇〇円を得ていることが認められるところ、前記分担金の算出に当つて控除した申立人の収入分四万円を同女の扶養に充てることができる外、相手方には前記(二)の一〇の土地譲渡による臨時収入もあつたことでもあり、右扶養のために前記婚姻費用分担金を減ずべき理由は認められない。

8  そうすると、相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担金として三一七万九〇〇〇円を即時に支払い、昭和五四年一一月一日から毎月末日限り一〇万円ずつを支払うべきである。

よつて、主文のとおり審判する。

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